日時:1月30日(木)13:00~
場所:総合人間学部棟 1107号室
・第一発表
発表者:近大志(谷口研究室M2)
タイトル: 「文字通り」の機能に関する考察
要旨: 本研究は「文字通り」という標識が発話解釈に貢献する機能について関連性理論 (cf. Sperber & Wilson 1995) の立場から考察したものである。
「後続表現の字義的意味を表す」という旨の辞書記述から大きく拡張して多数の用法が観察されており、先行研究によると、それらは複数の機能として措定されている。例えば、後続要素が比喩的意味であることを強調する機能だったり、後続表現が喚起する何らかの特徴が顕著であることを示す機能があるとされる。
このような背景をもとに、実際の文脈で「文字通り + 後続表現」が生起したときに、どのように発話解釈が行われるのか、という観点から「文字通り」の機能を規定した。
先行研究で提案されてきた機能を概観したのち、聞き手の発話解釈の観点から考えて機能が単一であるべきだと主張し、「文字に着目させることで特定の意味に話し手がコミットする」機能を提案した。次に、この機能に係る推論のあり方を補完する目的で関連性理論の枠組みを導入し、上記の機能を「「文字」という文脈を参照することで形成されるメタ表示から想定を引き出し、最も関連性の高い解釈を話し手の伝達意図として解釈せよ」という手続き的意味として規定した。最も関連性の高い解釈とは、話者が顕示的に伝達する特定の認知効果 (i.e. 強化・破棄・演繹) として定義される。
そして、具体例として「文字通りの NP」を取り上げた。伝達的関連性に基づく発話解釈ストラテジーを用いた解釈プロセスを提案し、個別の機能だと考えられていた「文字通り」の機能を実際の文脈に生起する用法だと捉えた上で、それらを導出するステップを説明した。
(2/4に開催される修論公聴会の練習です。)
・第二発表
発表者:森夏輝(谷口研究室M2)
タイトル:不一致理論の統合へ向けた笑いの語用論的考察
キーワード:笑い、不一致理論、アドホック文脈、オープンコミュニケ―ション、関連性の概念
概要:(本発表は修士論文公聴会の練習です。)
本研究の目的は、笑いが生じる理論である不一致理論について、従来論じられてきたものよりも、より説明力の高い理論を提案することにある。そこで、従来対立するとされてきた、不一致を認知しただけで笑いが起きるとする不一致認知理論と、不一致を認知したあとに不一致の解消が理解されることで笑いが起きるとする不一致解消理論に対し、その両方の理論それぞれの否定証拠を検討することによって、より広範な笑いのパターンを説明できる理論の構築を行った。具体的には、その場でやり取りされた文脈によって形成されるアドホック文脈、閉じた2者間のコミュニケーションを開いた第3者に向けて行うというオープンコミュニケーション、Griceの関連性の概念などの、語用論的な概念を導入することにより、不一致認知理論、不一致解消理論、そのどちらよりも説明力の高いRI認知理論の提案を行った。RI認知理論とは、関連性 (Relevance) と不一致 (Incongruity) が認知されたときに笑いが生じるとする新しい理論である。また、RI認知理論を用いて、実際の笑いの事例を分析した。
日時:1月23日(木)13:00~
場所:総合人間学部棟 1107号室
・第一発表
発表者:緒方悠介(谷口研究室M2)
タイトル:アイロニーの持つプロトタイプ性と発話解釈への影響
キーワード:アイロニー、プロトタイプ・カテゴリー、プロトタイプ効果、認識構造、理想認知モデル
概要:(本発表は2月の修士論文公聴会に向けた練習です。)本研究では、特に発話を解釈する場面において、該当発話が「アイロニー」であるかどうかを聴者はどのようにして判断しているのか、という点について分析することを目的とした。従来古典的カテゴリー観に沿って必要十分条件的な規定が試みられてきたアイロニーというカテゴリーに対して、プロトタイプ効果 (例えば、birdというカテゴリーにおいてはスズメやカラスが典型的な例として、ダチョウやエミューは周辺的な例として挙げられるといったような現象)を見出しつつ、プロトタイプ・カテゴリーとして捉え直すことを試みた。河上 (2018)をひきその解釈における条件を再考しつつ、適切な理想認知モデルをたてることでそのカテゴリーの内部構造の記述を仮説として試みたのちに、Coleman and Kay (1981)およびSweetser (1984)が英語のlieについて行った実験を参考に、日本人学生を対象に質問紙による評定実験を行いその仮説を考察した。
・第二発表
発表者:樊毓(谷口研究室M2)
タイトル: Non-canonical Bei Passives: A Cognitive Linguistic Analysis「被」を用いた非典型的受動構文ー認知言語学による分析ー
キーワード:被bei、被bei-XX構文、非典型的受動文、認知文法、行為連鎖モデル、主語性
概要:(本発表は2月の修士論文公聴会に向ける練習です)本研究は中国語の新規の非典型的受動構文、被bei-XX構文の機能の分析を目的としている。当該構文は「動作主の脱焦点化 (“agent-defocusing”)」という言語一般的な機能を持つ受動文から逸脱しているように見える。新規の被bei-XX構文には、構文的意味によって「強いられる」タイプ(“being forced” type)と「言われる」タイプ(“being (falsely) reported/ said” type)に分けられるが、「非典型的述語」、「降格された動作主の還元不可能」、「非被動作主主語をもつ」という統語的特徴が共通される。被bei-XX構文にある事態の捉え方を解明するために、行為連鎖モデルなどの認知言語学的概念が用いられ、以下の2つの特徴にまとめられる:(i)被bei-XX構文が表す事態の中、最も際立つ参与者の「主語性」の欠如、(ii)述定スコープの中のエネルギー源の不在。両タイプの構文的意味の違いが現実世界への参照に関わることも指摘されている。最後に、被bei-XX構文のスキーマが提案される。
日時:1月25日(土)13:30~
場所:総合人間学部棟 1107号室
・第一発表
発表者:朴敏瑛 (韓国外国語大学校日本語通翻訳学)
タイトル:局面と語彙アスペクト ―始動の局面を中心にー
キーワード:局面、語彙アスペクト(aktionsart)、限界、始動相
概要:現代日本語の時間表現の中には類義的な意味を持つ形式が少なくない。例えば、本発表の考察対象である「~しないうちに」も、動詞の表す動作や変化、状態がまだ始まっていない、開始の前の時を指している点で「~する前に」と共通している。「局面」とは、一つの出来事の持つ開始から終了までの内的過程の一部分を指し示しているが、未だ局面及び局面動詞についての研究は十分になされておらず、特に「~はじまる」と「~だす」などの類義表現の違いについてもほとんど解明されていない。従って本発表では、始動の局面を中心に、始動の以前の段階を表す「~する前に」と「~しないうちに」の違い及び始動の局面を表す「~はじめる」と「~だす」、「かける」についての考察を通して、局面及び局面動詞の捉え方の本質とは何かを追究し、特に動詞自体の持つ語彙アスペクト(aktionsart)が局面動詞(を含めて時間表現全体)の意味考察において極めて重要な手がかりになることを示唆したい。
・第二発表
発表者:萩澤大輝(神戸市外国語大学大学院)
タイトル:語形成のそもそもを考える
キーワード:認知言語学、語の存在論、同一性、ミーム、素朴理論
概要:近年、哲学の領域において「語の存在論」をめぐって議論がなされている。しかし、あまり言語学の知見を参照していないために議論が深まっていないように思われる。一方、言語学の領域においても、同一性や変化など哲学的に重要な観点が十分検討されないまま理論構築が行われている。
そこで本発表は主に次の2つの議論を行う。(i)哲学領域における語の存在論をめぐる議論に対して、認知言語学の立場から応答する。(ii)語形成における諸概念について、同一性や変化の観点から検討を行う。語の存在論については、語の典型的な存在論的ステータスをミーム(模倣によって伝達される振る舞いの慣習的パターン)と考えることで問題の解決を図る。語の同一性と変化については、素朴実在論を棄却し、概念化者による体制化の産物として語を捉える「構成論」を主張する。
日時:12月12日(木)13:00~
場所:総合人間学部棟 1107号室
・第一発表
発表者:神原一帆(谷口研究室D2)
タイトル: 役割名詞の類義語分析: フレーム意味論の観点から
キーワード: フレーム意味論,コーパス言語学,役割名詞,名詞の意味論,類義語分析
概要: 本発表はフレーム意味論を用いた役割名詞の類義語分析の手法を検討することを目的とする.フレーム意味論において,語の意味は理想的な状況を表すフレームとの関係から記述され,このフレームは状況の役割を表すフレーム要素から構成される,先行研究では類義関係にある動詞の意義をフレーム要素の分布から記述する方法が提案されている (cf. Atkins 1994).本稿では同様の手法を Education_teaching フレームにおける ⟨Student⟩ を表す “learner” と “student” という類義語に対して適用した結果を報告する.コーパス分析の結果,(i) フレーム要素の分布に基づく分析は類義語 の詳細な意味表示を与えることができるが,(ii) 時間のような周辺的なフレーム要素 (Ruppenhofer et.al 2016: 23–25) の分布が両者の意 味表示に重要な役割を果たす可能性が示唆された.なお,(ii) の結果は先行研究の結果とも整合する (cf. Fillmore 1994).
日時:12月5日(木)13:00~
場所:総合人間学部棟 1107号室
・第一発表
発表者:森夏輝(谷口研究室M2)
タイトル:不一致認知説と不一致解消説の統合へ向けた語用論的考察
キーワード:笑い、不一致認知・解消説、語用論
概要:笑いが生じる説には、大きく分けて三つの説がある。すなわち、優位説、解放説、不一致説である。本発表の目的は、語用論的な概念を用いて、不一致説を精緻化することにある。談話の進行に伴いその場でアドホックに形成される文脈、演者と観客という三角関係のコミュニケーションであるオープンコミュニケーションの概念、この二つを用いて、不一致説の大まかな二つの主流である、認知説と解消説の統合を目指す。