・日時: 2021年 9月25日 13:00~*
・発表者: 宮川創 (京都大学文学研究科 助教授)・黒田一平 (龍谷大学/京都ノートルダム女子大学/京都大学 非常勤講師)
・タイトル: 世界最長の書記記録をもつ古代エジプト語への認知言語学的アプローチ:構文化・文法化・認知文字論をめぐって
・キーワード: 構文文法、文法化、認知文字論、エジプト語、コプト語、ヒエログリフ
・要旨:
現在見つかっているものの中で古代エジプト語の最古の書記記録は、アビュドスU-j墓で見つかった象牙製のタグである。このタグは、放射線炭素年代測定で紀元前3350年から紀元前3150年のものであると判明している。このタグに書かれている文字は原エジプト文字であり、そこからヒエログリフとヒエラティックという2種類の文字が生まれた。その後、ヒエラティック はデモティックというより簡略な文字体系を生み出す。これらの古代エジプト文字は専ら古代エジプト語を書き記すために用いられ、その使用は紀元後5世紀まで続いた。アレクサンドロス 大王の東征によって紀元前4世紀からギリシア人政権がエジプトの支配者となった。ギリシア語は、その後のローマ時代・ビザンツ時代も行政言語として使われた。紀元前からギリシア文字で古代エジプト語を書き記す試みが行われたが、紀元後3世紀頃に、6~8種類のデモティック由来の文字で拡張されたギリシア文字で古代エジプト語を書くことがある程度標準化された。後にコプト・キリスト教徒が専らこの書記言語を用いたことから、拡張されたギリシア文字で書かれたこの古代エジプト語はコプト語と呼ばれる。コプト語はそれ以降生き続けたが、アラビア語に押され、紀元後14~17世紀頃に、日常言語としての使用は一旦停止されたと考えられている。しかし、コプト・キリスト教における典礼言語として生き残り、現在まで文語として用いられているほか、紀元後19世紀からは、言語復興運動が続けられている。このように、古代エジプト語は、紀元前3350~3150年頃から、現代のコプト語まで、5000年以上の書記記録を残す言語であり、世界で最長期間の言語変化を追える言語である。本発表は前半と後半に分けられる。前半は、宮川が、様々な構文が体言化接辞へとなっていく文法化現象について論じる。構文文法と文法化の接点が近年比較的よく研究されてきているが、それらの研究成果を踏まえながら、古代エジプト語における様々な構文の体言化接辞への文法化において、構文変化が文法化の重要なファクターとなっていることを示す。後半は、古代エジプト語を記録するために用いられたヒエログリフの認知言語学的研究が主題である。黒田が認知文字論のフレームワークを示した上で、宮川がメタファー・メトニミー・アイコニシティー・カテゴリー化が顕著に表れるヒエログリフの様々な文字論的現象を提示し、認知文字論によるヒエログリフ研究の将来性を議論していく。
*前回と同様,本研究会はzoomにて開催いたします.参加を希望される方は taniguchi.info@gmail.com までご連絡ください.