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**生態学的観点からの意味論・統語論研究 [#w3fd3131] **生態学的観点からの意味論・統語論研究 [#w3fd3131]
-言語についてのモデル(言語観)は幾つかありますが,多くの言語学者は「言語は(思考のための)内的な表象である」あるいは「言語は参与者間の心(頭の中)にある意味や情報を伝達する道具である」という前提や,個人内での情報処理プロセスを(半ば暗黙のうちに)想定していると言えます.「ことばの意味」とは,形式によって話者の間で伝達されるものである.+言語についてのモデル(言語観)は幾つかありますが,多くの言語学者は「言語は(思考のための)内的な表象である」あるいは「言語は参与者間の心(頭の中)にある意味や情報を伝達する道具である」という前提に立ち,個人内での情報処理プロセスを(半ば暗黙のうちに)想定しているといえます。この観点からは,「ことばの意味」とは,形式によって話者の間で伝達される内容であるとされています.
-Langackerをはじめとする認知言語学は環境と身体を考慮した認知科学のパラダイムであるとしていますが,その基盤である認知能力はあくまで個人の内的なものとして考えられています.ことばの「意味」とは,制約のない概念化や解釈による心的表象であると言えます.+また,Langackerをはじめとする認知言語学は環境と身体を考慮した認知科学のパラダイムであるとしていますが,その基盤である認知能力はあくまで個人の内的なものとして考えられています.ことばの「意味」とは,制約のない概念化や解釈による心的表象であるとされます.
一方で,心の機能や認知を社会的に構成されうるものと捉える社会学(cf. Ryle 1949; Coulter 1979)や談話分析,エスノグラフィー研究,あるいは認知の分散性(Hutchins 1995)を唱える認知科学の領域では,意味は相互行為の中で実現される価値のある行為であるとされます. 一方で,心の機能や認知を社会的に構成されうるものと捉える社会学(cf. Ryle 1949; Coulter 1979)や談話分析,エスノグラフィー研究,あるいは認知の分散性(Hutchins 1995)を唱える認知科学の領域では,意味は相互行為の中で実現される価値のある行為であるとされます.
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さらに,Gibson(1979)の「アフォーダンス理論」から始まる生態心理学は,言語によるコミュニケーションを情報処理とはみなさない,情報や知識に対しての全く異なるアプローチであると言えます.Gibsonの生態心理学的観点を継承したEdward Reedは「言語は,環境中の情報(生態学的な意味や価値)を特定し,共有するための手段である」(Reed 1996: 115)という言語観を提示しています. さらに,Gibson(1979)の「アフォーダンス理論」から始まる生態心理学は,言語によるコミュニケーションを情報処理とはみなさない,情報や知識に対しての全く異なるアプローチであると言えます.Gibsonの生態心理学的観点を継承したEdward Reedは「言語は,環境中の情報(生態学的な意味や価値)を特定し,共有するための手段である」(Reed 1996: 115)という言語観を提示しています.
-ここで私は単純に「言語は話者の<見え>を直接反映している」とする心理主義・認知主義的立場でもなく,また「言語はアフォーダンスと直接対応する」というような客観意味論的,あるいは因果論的立場でもなく,言語を,他の記号(シグナル)と同じく人間が生態域の中での行動調整に用いる記号の体系とみなし,「言語はアフォーダンスを発見しやすくするために環境に施されたデザインであり,``シグニファイア(signifier, Norman 2010)”である(井上 2016: 41)」とであるいう観点から,認知言語学における「際立ち(salience)」に関する議論や「参照点構造(Reference-point structure, Langacker 1991; 1993)」といった記述方法を取り入れつつも,その意味観をシフトさせ,言語行為によって実現される「生態学的意味」(実用主義的な意味)を中心に据え,さらに語の使い分けや語順などといった形式(統語論的な側面)に関する生態学的な動機づけを考察していきたいと考えています.+しかし,「言語は話者の解釈や<見え>を直接反映している」とする心理主義・認知主義的立場でもなく,また「言語はアフォーダンスと直接対応する」というような客観意味論的,あるいは因果論的立場でもなく,言語を,他の記号(シグナル)と同じく人間が生態域の中での行動調整に用いる記号の体系とみなし,「言語はアフォーダンスを発見しやすくするために環境に施されたデザインであり,「''シグニファイア(signifier, Norman 2010)''である(井上 2016: 41)」とであるいう観点から,認知言語学における「際立ち(salience)」に関する議論や「参照点構造(Reference-point structure, Langacker 1991; 1993)」といった記述方法を取り入れつつも,言語行為によって実現される「生態学的意味」(実用主義的な意味)を分析対象の中心に据え,さらに語の使い分けや語順などといった形式(統語論的な側面)に関する生態学的な動機づけを考察していきたいと考えています.
最終的には,社会学,人類学などの他の人文科学系の意味観,さらに生物学・生態学などの研究で得られる知見を適切に解釈することで,認知科学における意味観の統合を目指すことが可能であると考えています. 最終的には,社会学,人類学などの他の人文科学系の意味観,さらに生物学・生態学などの研究で得られる知見を適切に解釈することで,認知科学における意味観の統合を目指すことが可能であると考えています.


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