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一方で,Gibson(1979)の「アフォーダンス理論」から始まる生態心理学は,情報処理とはみなさず,情報や知識に対しての全く異なるアプローチであると言えます.そこでは「言語は,環境中の情報(生態学的な意味や価値)を特定し,共有するための手段である」(Reed 1996: 115)というモデルが提示されています. 一方で,Gibson(1979)の「アフォーダンス理論」から始まる生態心理学は,情報処理とはみなさず,情報や知識に対しての全く異なるアプローチであると言えます.そこでは「言語は,環境中の情報(生態学的な意味や価値)を特定し,共有するための手段である」(Reed 1996: 115)というモデルが提示されています.
-しかし,私は単純に「言語は話者の<見え>を直接反映している」とする心理主義・認知主義的立場でもなく,また「言語はアフォーダンスを直接指示する」とする因果論的立場でもなく,「言語はアフォーダンスを発見しやすくするために環境に施されたデザイン=シグニファイア(signifier, Norman 2010)である(井上 2016: 41)」という観点から,ベースとプロファイルなどの認知的際立ちに関する議論や参照点構造(Langacker 1991, 1993)といった認知言語学における記述方法を取り入れつつも,その意味観をシフトさせ,言語行為によって示される生態学的意味(実用主義的な意味)を中心に据え,さらに語の使い分けや語順などといった形式(統語論的な側面)に関する生態学的な動機づけを考察していきたいと考えています.+しかし,私は単純に「言語は話者の<見え>を直接反映している」とする心理主義・認知主義的立場でもなく,また「言語はアフォーダンスを直接対応する」というような客観意味論的,あるいは因果論的立場でもなく,言語を,他の記号(シグナル)と同じく人間が生態域の中での行動調整に用いる記号(シグナル)の体系とみなし,「言語はアフォーダンスを発見しやすくするために環境に施されたデザインであり,``シグニファイア(signifier, Norman 2010)”である(井上 2016: 41)」という観点から,ベースとプロファイルなどの認知的際立ちに関する議論や参照点構造(Langacker 1991, 1993)といった認知言語学における記述方法を取り入れつつも,その意味観をシフトさせ,言語行為によって示される生態学的意味(実用主義的な意味)を中心に据え,さらに語の使い分けや語順などといった形式(統語論的な側面)に関する生態学的な動機づけを考察していきたいと考えています.
-2014年に提出した北海道方言に関する卒業論文では,「ラサル構文」が持つ意味を「被動作主(鉛筆,ボタン等)が持つアフォーダンスの知覚の共有」であるとし,その形式の動機付けについて「被動作主をより認知的に際立たせるために動作主が省略される」と説明しています. 
-また,2016年に提出した修士論文では,アイヌ語において定表現(definite expression)であるとされる「場所表現」(中川 1984; 井筒2006等)について,特に場所名詞や地名がその土地のアフォーダンス知覚を特定させるための表現であり,その土地での行為可能性に基づく土地の利用可能性によって区別するという点で定表現(definite expression)となるということを論じました.この議論で得られた知見は,唯一無二でありかつ経験と分かちがたい場所の持つ「場所性(placeness, Relph 1977; Tuan 1979)」の議論や,オギュスタン・ベルクの「風土(milieu)」の議論とも整合するのではないかと考えています.+''今までの,そしてこれからの研究との関連から'' 
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 +2014年に提出した北海道方言に関する卒業論文では,「ラサル構文」が持つ意味を「被動作主(鉛筆,ボタン等)が持つアフォーダンスの知覚の共有」であるとし,その形式の動機付けについて認知言語学的に「被動作主をより認知的に際立たせるために動作主が省略される」と結論づけました. 
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 +しかし今後は,ラサル構文の使い分けを指標として,主語として表れる名詞のの指示するモノのアフォーダンスの構造を考察していきたいと考えています.例えば「iTunesを開くとSafariが勝手に''開かさる''」のように,ラサル構文は新しい事物やプロダクトに対しても柔軟に用いることができます.言語もデザインの一部であるとみなせば,モノとそれを取り巻く言語使用とをセットで考えることで,新しい製品などのデザイン(プロダクトデザイン)のあり方を再考するのに大きな手助けとなる可能性が見えてくると言えます. 
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 +また,2016年に提出した修士論文では,アイヌ語において定表現(definite expression)であるとされる「場所表現」(中川 1984; 井筒2006等)について,特に場所名詞や地名がその土地のアフォーダンス知覚を特定させるための表現であり,その土地での行為可能性に基づく土地の利用可能性によって区別するという点で定表現(definite expression)となるということを論じました.この議論で得られた知見は,唯一無二でありかつ経験と分かちがたい場所の持つ「場所性(placeness, Relph 1977; Tuan 1979)」の議論や,オギュスタン・ベルクの「風土(milieu)」の議論とも整合すると考えています.
**アイヌ語の言語復興に貢献するための理論言語学的基盤の構築 [#w3fd3131] **アイヌ語の言語復興に貢献するための理論言語学的基盤の構築 [#w3fd3131]
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2016年12月 井上拓也.「アイヌ語の場所表現に関する記述的研究: 認知言語学的観点から」, 言語科学論集, 第22号: 1-23.~ 2016年12月 井上拓也.「アイヌ語の場所表現に関する記述的研究: 認知言語学的観点から」, 言語科学論集, 第22号: 1-23.~
2017年6月 井上拓也.「アイヌ語の場所表現に見られる定性に関する考察---英語のweak definiteとの比較を通して---」, 関西言語学会第42回大会, 京都大学吉田南キャンパス.~ 2017年6月 井上拓也.「アイヌ語の場所表現に見られる定性に関する考察---英語のweak definiteとの比較を通して---」, 関西言語学会第42回大会, 京都大学吉田南キャンパス.~
-(発表予定)2017年6月 井上拓也.「アイヌ語沙流方言の場所表現における「場所名詞」に関する研究」, 日本言語学会第154回大会, 首都大学東京.~ +2017年6月 井上拓也.「アイヌ語沙流方言の場所表現における「場所名詞」に関する研究」, 日本言語学会第154回大会, 首都大学東京.~ 
-(発表予定)2017年7月 Inoue, Takuya. "“Place” in the Ainu language: a View from Reference Point Structure and Affordance Theory", the 14th International Cognitive Linguistics Conference, University of Tartu, Estonia.~ +2017年7月 Inoue, Takuya. "“Place” in the Ainu language: a View from Reference Point Structure and Affordance Theory", the 14th International Cognitive Linguistics Conference, University of Tartu, Estonia.~ 
-(発表予定)2017年9月 井上拓也, 神原一帆. 「生態学的な語彙意味論に向けて」, 日本認知科学会第34回大会, 金沢大学.~+(発表予定)2017年9月 神原一帆, 井上拓也. 「生態学的な語彙意味論に向けて」, 日本認知科学会第34回大会, 金沢大学.~
*フォーラム、自主ゼミ等 [#b29c0f6e] *フォーラム、自主ゼミ等 [#b29c0f6e]
2013年10月17日 「北海道方言のラサル構文に関する認知言語学的考察―アフォーダンスの観点から―」~ 2013年10月17日 「北海道方言のラサル構文に関する認知言語学的考察―アフォーダンスの観点から―」~


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